• 酪農と乳業をむすぶ生乳売買プラットホーム

取材を終えて

一連の出来事は当事者の酪農家はもちろんだが、近隣の農家にも大きな傷跡を心に残したようだ。
農協組織への不信感と諦め。
元来農家が作った組織ではあるが、すでに農家の手に負えないほど巨大化してしまっている。
何よりも、農家自身がマインドコントロールされてしまっている。
「逆らえばろくな事がない」という言葉がよく話の中に出てくる。
改革や改善などという事は組合長の挨拶の中だけの話で、現実にはなにも変化しないだろう。
 
今回の取材では特にリーダーシップ、メンバーシップという面でも考えさせられた。
川野は、みんなのリーダーシップを取れるだけの時間的、経済的余裕がなかったという。
夫婦だけで100頭の搾乳をしていれば時間の余裕などできるはずもない。
だから各個人の責任でアウトサイダーを始めてもらい、八ヶ岳酪農乳業との契約書には個々の判断で捺印した。
しかしメンバーとなった酪農家にその意識はなかった。
組合に依属する代わりに「八ヶ岳乳業傘下に入った、川野に付いて行った」という意識だった。
月毎の会議を開いても、各農家の意見はほとんど聞く事ができなかったという。
自己の責任で、と言われても、理解し、受け入れるのは難しかったようだ。
リーダーの責任を問う非難は良く聞くが、メンバーにも責任はある。
選んだからにはその人が十分動けるよう、協力しなければならない。
決定されるまでに、意見を言うのもメンバーの責任だ。
これがなくてはリーダーとして、勇気を持った適切な決断ができない。
そして、メンバーであればリーダーの決定に従う義務がある。
 
古代ローマは、当初3000人の小村であった。
周りは何十万人という規模の王国に囲まれていた。
ギリシャ、エジプト、カルタゴ、スペイン、ガリア、それらの国と戦い、 融和し後にヨーロッパ全域をまとめる大帝国となった。
そして千年の長きに渡ってこれらの人々を治めている。
紀元前500年ころ、ローマ創設期、周りの王国は負け戦の将軍を帰国と同時に処刑していた。
そうする事で必死に戦い、勇敢な戦になると言う。
確かにそうだが、 勝敗の確立は平均すれば2分の1である。
何度も繰り返される戦争で、将軍は何人、生き残れるのだろうか。
それに戦いは将軍の力量だけで左右するものでもない。
ローマは優秀な将軍を育てるために当時では例がないことをする。
敗戦の将をまったく罰せず、またすぐに新たな軍隊を与えて戦場に出している。
 
そこには、敗戦で部下を失い、名誉は傷ついている、これ以上なぜ罰する必要があろうか。という軍を送り出したローマ市民の総意があったという。
敗軍の将も戦の経験を積むうちに、勇気だけではなく知恵をつけるようになる。
貴重な経験を生かし、自軍の2倍の敵を打ち負かすほどの将軍になる。
そしてまた軍隊を増やし時に5倍もの敵軍をも撃破する。
勇気と技術とリーダーシップ、メンバーシップのコンビネーションだ。
建国後、300年の時をかけ無敵のローマ軍ができたのである。
 
今回の取材では酪農家が陥りやすい間違いが数多く伺える。
重い口を開いていただくのに時間もかかった。
それでも取材に協力していただいた方々が一様に言うのはやってよかった、いい経験だった。今もあの経験は生きているよ、という言葉だ。
近隣酪農のうわさ話として、内外ともに川野氏や当事者に対する批判と中傷は聞く。
しかしそのほとんどが事実とは違うものだ。
噂話には尾ひれがつくと言うが、尾ひれ背びれも大きくなると肝心の魚まで変わってしまうらしい。
リーダーである川野はその最前線で戦っただけに、他のメンバーとは比較にならないほど精神的、経済的負担を受けた。
しかしそれも今になってみればいい経験であったという。
65円/kgの乳価でまともな牛乳を売ると思えば怖いものはないのだろう。
 
この貴重な経験をどこまで生かせるか。酪農界を引き継ぐ世代の器量と姿勢にかかっている。
 
個人名、および一部の団体名は仮名を使わせていただいたが、文中大変失礼な段、まことに失礼な表現等あります。
簡潔にわかりやすく表現するあまり、 当事者にとっては耐え難い部分もあると思われます。
ご容赦のほどお願いいたします。