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判決文全文(主文)

事 実 及 び 理 由

第1  原告の請求

被告は、原告に対し、2億5646万4525円及び

  1. うち1231万6665円に対する平成6年4月1日から
  2. うち2736万3090円に対する平成7年4月1日から
  3. うち2612万7796円に対する平成8年4月1日から
  4. うち2514万9721円に対する平成9年4月1日から
  5. うち2830万6621円に対する平成10年4月1日から
  6. うち3165万5508円に対する平成11年4月1日から
  7. うち2924万2473円に対する平成12年4月1日から
  8. うち2768万3165円に対する平成13年4月1日から
  9. うち2879万8260円に対する平成14年4月1日から
  10. うち1982万1226円に対する平成15年4月1日から

各支払済みに至るまで年5分の割合による金員を払え。

第2  事案の概要
  1. 埼玉県経済農業協同組合連 (以下「県経済連」という。)は、農業協同組合法に基づく農業協同組合連合会であり、平成14年4月1日、被告と合併して解散した。
    一方、原告、本庄酪農業協同組合、けやき酪農業協同組合は、いずれも農業協同組合法に基づく農業協同組合であったが、平成15年10月1日に合併し、本庄酪農業協同組合とけやき酪農業協同組合が解散して原告に一本化された。
    県経済連は、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(以下単に「法」ということがある。)5条による埼玉県知事の指定を受けた生乳生産者団体であったところ、原告(平成15年10月1日の合併前の本庄酪農業協同組合、けやき酪農業協同組合を含む。以下同じ)との間で生乳受託販売に係る委託契約を締結しているが、この契約に基づいて原告に支払うべき委託販売代金から費用等を差し引き徴収している。
    本件は、原告が、被告に対し、上記のように差し引かれた費用等には本来差し引かれるべきではない金額が含まれ、その部分について被告が法律上の原因なくこれを利得しているとして、その利得金額とこれに対する民法704条に基づく利息の支払いを求めた事案である。
  2. 争いのない事実(争うことを明らかにしない事実を含む。)

    1. 法は、昭和41年4月1日に施行され、県経済連においても同年9月1日、「生乳受託規定」を定めて生乳受託販売の事業をするようになった。
    2. 原告(合併前)と本庄酪農業協同組合は昭和41年9月から、けやき酪農業協同組合は平成9年10月1日から、それぞれ県経済連との間で委託契約を締結していた。
    3. 平成5年3月ころから、県経済連は、一元集荷多元販売体制を確立して県 内4か所のCS(クーラーステーション)を利用させる体制の下に経費も一元化をはかることを考え、契約相手の各酪農業協同組合等に提案するようになった(これが、その後どのような形で決定されたかについては争いがある。)。
    4. 県経済連は、平成5年9月1日出荷分から共計集送乳費用等の県内プール制、すなわち委託販売代金から集送乳費用等を差し引いて各契約酪農業協同組合に支払うことを実施することとした。
      しかし、県経済連が企図したCSに加入しない酪農業協同組合が存在することになったため、その加入しない 組合には共計集送乳費用等を返還することとし、その金額を1kg当たり5円と見積もり、その金額を返還することとした。
    5. 集送乳費用等は前記のとおり見積もられたが、実際に要した1kg当たりの額は、平成9年度までは少なくとも毎年5. 95円、平成10年度が5. 9 5円、平成11年度が5. 90円、平成12年度が5. 88円、平成13年 度が5. 98円、平成14年度が5. 71円であった。
      したがって、もしCSに加入しない酪農業協同組合に対して返還すべき金額を、当初の見積額ではなく実際の額によるとした場合には、原告に対して支払われるべき金額は別紙「被告CS未利用組合集送乳等費用返還請求額算定表」の差額総計欄記載の金額となる
    6. 争点
      本件の直接的な争点は、被告が原告に対して返還してきた1kg当たり5円という金額と実際の額との差額が被告による不当利得になるのか否かという点で あるが、不当利得にはならず、被告に残存させた金額は法律上の原因があるとする被告の主張は次のとおりである。

      1. 法に基づく指定団体であった県経済連は、集送乳費用等の控除に関する具体的内容を任意に決定することができるのであるから、県経済連による措置 は法律上の原因があるものである。
        すなわち、集送乳費用等の控除に関する具体的な内容は法施行規則7条3号に反しないものであれば、「生乳受託販売に係る委託を受ける場合の条件」として、県経済連に決定権限があったのである。
        そして、平成5年3月8日、同年6月16日、同年8月8日の生乳受託販売委員会の決定に従って集送乳費用等の控除を行ったものである。
        なお、平成12年度以降は関東生乳販売農業協同組合連合会が指定団体になったが、県経済連ないしそれを承継した被告は、埼玉県下の農業協同組合から生乳受託販売業務を受託し、これを関東生乳販売農業協同組合連合会に再委託している。
      2. 原告を含む委託者たる各酪農業協同組合等は、県経済連が生乳受託販売委員会の決定に従って生乳受託販売の業務に関する重要事項を決定することに同意し、承認していたものである。
        原告の主張は、集送乳費用等の合理化による乳価形成の強化、ひいては一元集荷多元販売制度の強化を否定するものである。
      3. なお、委託販売は共計勘定の制度として一元化されているのであり、毎年度末において黒字になるよう調整し、その残金は各委託者に対して各年度末精算金として分配してしまうのであるから、剰余金は存在せず、被告には利得はない。

    第3  当裁判所の判断
    1. 法は、酪農及びその関連業界の健全な発達を促進することなどを目的に、関連事業者に補給金を交付する制度を創設したものであり、それを実現するために、生乳共販事業を主軸とし、それと関連させて補給金を支給する方法を採った(乙2)。
      つまり、法の趣旨は、生乳共販事業を行うことを必須のこととしている。そしてこの事業については、生乳生産者団体を指定することとし、その団体が生乳受託販売の事業と生産者補給金の交付の業務を適正かつ確実に実施することが要請されている。(法6条、7条)。
      県経済連はかかる団体として指定され、「生乳受託規程」(乙 1)は、このような法の趣旨に基づいて県経済連において定められたものである。
    2. ところで、被告は、集送乳費用等の控除に関する具体的内容が「生乳受託販売に係る受託を受ける場合の条件」であると主張する。
      しかしながら、まず、県経済連が、一元集荷多元販売体制を確立して県内4か所のCS(クーラーステーション)を利用させる体制の下に経費も一元化をはかることを考え、 契約相手の各酪農業協同組合等に提案するようになったのは、平成5年3月ころからである。
      すなわち、昭和41年4月に生乳共販事業を行うことを必須とするこの法が施行されてから25年以上もの間はそのような提案はなかったのであるから、そのことだけからしても、県経済連の計画したCS利用や集送乳費用等の一元化はこの法による生乳共販事業の必須の内容とはいえないものであることが明らかである。
      つまり、委託販売の制度と集送乳費用等の控除には必然的な結びつきはないものといわざる得ない。
    3. 証拠によれば、確かに、県経済連は、平成5年3月に「今こそ集送乳等流通経費を合理化するチャンスではないでしょうか。」(乙3)と題する資料を発行して、関係者に対する働きかけをしていることを認めることができる。
      しかしながら、この県経済連の構想については、平成5年6月中に「同調できない」という組合が存在していること(甲25-1-2、29)が認められ、県経済連自体も同年7月5日の段階で反対意見があることを明確に認識していること(甲11)が明らかである。(その意味で乙21は採用しがたい。)。
      そのようなことがあって、県経済連では、同年9月1日出荷分から集送乳費用等の控除をするけれども、CS荷加入できない組合については、控除すべき分を返還することにした(甲4、12)ものと認めるのが相当である。
      この返還をするということは、CSを利用する組合と利用しない組合とに分け、利用しない組合から集送乳費用等を徴収することはできない性質のものであることを前提にした措置であると解することができる。
    4. してみると、本来、県経済連において行うことが必須とされているのは、委託販売の事業なのであるから、その範囲内において種々の事項を決定することはできるものの、集送乳費用等の控除については、委託販売事業に当然随伴するようなものではなく、必須の業務ではないのであるから、同意もないのにこれを一方的に決定すrことができる根拠を欠くものというほかはない。
      被告が主張するように、もし「生乳受託販売に係る委託を受ける場合の条件」であるならば、それは委託契約の条件になるのであり、当然に契約書に明記されてしかるべきと思料されるが、契約書(甲1~3)にはその旨の記載はない。
      すなわち、平成5年より前の時期における契約とその後の契約とでどのような違いがあるのかも明確ではなく、結局前記契約書(甲1~3)から明らかなように、この契約は単なる委託販売契約であり、被告の主張するようなCS利用や集送乳費用等の負担も含む広範な内容を持つ契約であることを示すような契約条項は見当たらないのである。
      また原告が県経済連の決定に同意した旨の主張については、これを認めるに足りる証拠はない。
    5. なお、被告は、毎年度末において剰余金を分配してしまうので利得がない旨を主張する。
      しかしながら、本件は、被告のCSを利用せず、集送乳費用等の負担を必要とするはずのない原告が、これを控除されたことを被告の利得とし、その法律上の原因がないとして請求しているのである。
      そしてこれまでに判断したように、原告との間で締結された委託契約においては、被告のCS利用や集送乳費用等の控除が必ずしも必須の要素とはなっておらず、この点について明確な同意などもないままに被告において現実に返還すべき金額を下回る金額だけが返還されてきたというものであり、その点について剰余があった以上、たまたまそれを別個の理由に基づいて別個の用途に使用したからといって、不当利得返還請求の要件である利得がなくなるということになるわけではない。
    6. 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく(例えば、指定団体ではなくなった時以降の被告の行為を、どのように説明するかといった点にも疑問が残る。)、被告の措置に法律上の原因があると言うことは困難である。
      したがって、不当利得であるとの原告の請求は理由がある。
      ただ、被告において、これを悪意によって控除し続けたか否かという点については、証拠上これを明確にすることは困難である。(5円の範囲内で返還していたことは確かであり、その金額で十分であると誤解していた可能性も否定できないので、これを「悪意の受益者」とは解し難い。)。
      したがって、利息の請求は理由がないが、訴状及び請求拡張の書面送達の日以降の遅延損害金については予備的(黙示的)に請求しているものと解することができるのでこれを認めることとする。
      よって、主文のとおり判決する(平成16年1月28日口頭弁論終結)。

    さいたま地方裁判所熊谷支部
    裁判官    若 林   辰 繁