• 酪農と乳業をむすぶ生乳売買プラットホーム

 新型コロナウイルスの報道は連日続いている。国内感染者数15231人(5月6日現在、※注1)だ、拡大が続き、大都市を中心に拡がり1万5千人を超えた。

表題とは逸れるが新型コロナウイルスの報道を観ると気になることがある。

畜産の業界は鳥、豚、牛どの畜種も感染症対策は経営を左右する重要な問題だ。鳥インフルエンザ、豚コレラ、口蹄疫、どれも長い間世界の家畜や人を脅かし苦しめてきた。これらの病原体は全てウイルスである。細菌ではない。

コロナウイルスは畜産の世界にも多種存在する。今回の発生源も人、家畜、野生動物がそれぞれに食べ、繁殖し時に食べられ、複雑に混在していた地域のようだ。「種の壁」を乗り越え「新天地」を求めて止まないウイルスには良い条件と思う。

改めてこのウイルスの拡散の速さとしたたかな増殖行動には驚いている方も多いいのではないだろうか。

人間と、人間が食物の獲得のために飼っている家畜の体重の合計は自然界を闊歩している獣や小動物、鳥達の合計よりもずっと多い、その比率は約9対1といわれる。

                                       ※注2

6億年前、単細胞生物から多細胞生物が生まれた。多細胞生物は進化の過程で大型化し、複雑化し今の生態系があると考えられている。
ところが現在、人間をひとつの種として考えた場合。単一の種としての人間の合計体重と、その人間に飼育される家畜の合計体重が、全世界の野生動物達を圧倒しています。
「体重=細胞数」と考えると新型コロナウイルスの宿種になってしまった人間は彼らにとって無限大とも言える増殖地を与えてしまった事になる。しかもこの「増殖地たる人」は、かつて例の無い密集と高速移動を日々繰り返している(※注3)、という現実があります。

また一方、家畜は日々改良され、産肉性、肉質の向上や生産乳量を求められ、疾病や感染症には弱くなっていく。
人は医療技術の進歩のおかげで一世紀前と比較すれば格段に寿命は伸びた。2〜3割だった難産や幼児死亡率は限りなくゼロに近づいている。
耐病性に優れていなくても、高齢になっても生きていられるのです。
人もまた疾病、特に感染症には弱くなっている、と考えられる。
法定伝染病が確認された場合、家畜であれば畜舎に閉じ込め、最悪、全頭殺処分という残酷な手段だが「浄化」ができる。しかし人間ではそうはいかない。

MERS,SARS の流行があり今回の新型コロナウイルスがあり、ウイルスとの戦いは長く、過酷に続くような気がしてならない。

牛乳の流通と新型コロナウイルス
2月に入り新型コロナウイルスの罹患率が急速に広がる中、安倍総理は2月29日、学校の休校を打ち出した(その後、5月連休明けまでとなり、さらに5月末まで延期された)。
野党からは性急すぎる判断ではないか、と経緯の開示を求められていたが、急ぎ決した学校閉鎖でも拡大は止まらず、全国規模の緊急事態宣言発動になった。
生乳業界では学校給食乳の期中中断という事態となり「突然、約3ヵ月の長い春休みが来た」状態になった。
牛乳の行き場がなくなる心配がされ、酪農組合団体の要請で農水大臣は早々に「学乳分は乳製品加工に向け、差額は国が補填する」と言い放った(3月6日)。

これによって大きな問題が起こってしまった。
酪農の生産する生乳の売価は使われた用途によって決められる。
学校給食向けの生乳が最も高く売れる事から、この「価格を補償」される事になった全国の学校給食向け生乳は加工原料乳に向かった。
学校給食向け生乳は地元の都道府県の生乳を使う様に指導されている。
都府県の各地の生乳が急遽加工向けとして北海道や九州の加工工場に逆流した(消費地帯から生産地に)のである。

学校の休校時、従来であれば家庭にいる子供達に向けに給食用牛乳は市乳向けの配乳に切り替わる。
ところが市乳向けよりも5円から20円程高く精算される学校給食向け単価で加工に配乳されることになった。
本来、家庭にいる子供達に配乳されるべき牛乳が脱脂粉乳とバターになってしまったのである。
生産者にはその差額、 53.2円が支払われることになった。

学校給食向け価格  128.2  円/kg(関東の乳業の一例、全国一律ではない)
加工向け価格       75円/kg(脱粉、バター)
――――――――――――――――――――――――――――――――
差額             53.2円/kg

農水が支払う補填金
差額  53.2円/kg × 学校給食向け推定乳量 1,900,000kg(全国、※注4)/1日あたり

国が支払う補填金
総額  101,080,000円/1日あたり

(所定休校日数を除いた)推定総額
1日 101,080,000円 × 52日 = 5,256,160,000円(52億5616万円)

 

これにより酪農家の生産者の売り上げ保証はされたのだろうか?
全国の生産者の生乳を95%以上預かる農協指定団体に聞いてみるとそうではない。都府県では遠隔地への送乳費の増大があり、北海道では3月時点でも過去最大に増大した脱脂粉乳の在庫がさらに積み上がり行き場のない生乳が発生しているという。
全国的に生産者乳価は下げられそうだ。
消費者サイドはどうか、飲用牛乳の約7割を担う中小乳業はスーパーや飲用製品問屋から前年比110%〜120%の発注を受けている。
緊急事態宣言で例年の春休みであれば海に山に出かける子供達が家に居る。都市部も田舎も全てのスーパーが異例の売り上げ増を記録した。牛乳の消費も伸びた。
中小乳業からは市乳向け生乳の配乳追加注文が相次いだが、指定団体は渋い対応をしている。
学校給食向けで政府に補償してもらった方が、単価がいいからだ。
運送費の増大で生産者乳価は下方修正されるが組織として「学校給食向け生乳枠」という既得権を主張した手前、政府の補償は全面的に受けることになるだろう。
5月、消費が伸びると更にスーパーの牛乳は逼迫する。出荷制限する乳業が現れるかもしれない。
今回の学校給食向け生乳の加工乳差額補填は、生産者の乳価保証にはなっていない。
運送費の増大で補填金は消えてしまうだろう。
消費者にとってはどうか?
多くの労働者が仕事を休んでいる今、出費を抑えたい消費者の方々にとってはお手頃価格の牛乳の安定供給は欠かせない。が、今までの流通を変えるような差額補填は供給不安を引き起こしかねない。

なぜこうした事態を業界紙や北海道新聞は取材さえしないのか?

今回の学校給食乳の差額補填は新型コロナウイルス対策とはいえ莫大な金額の加工原料乳補填金追加となるだろう。
しかしながら生産者乳価の維持もできず、消費者には供給不安を招くとすれば誰のために、何の目的で行ったのか?
補填金を農水大臣に進言した組織のためか?

 

株式会社MMJ 代表取締役社長 茂木修一

※注1 日本経済新聞『新型コロナウイルス感染世界マップ』
※注2 ユヴァル ノア ハラリ著 柴田裕之訳 『ホモデウス 上』
※注3 通勤ラッシュやイベントと超高速な移動手段(航空機等)
※注4 日本経済新聞3月6日付記事『「給食休止」苦難の牛乳 脱脂粉乳在庫増、価格下落を警戒』