• 酪農と乳業をむすぶ生乳売買プラットホーム

コロナウイルス騒動に乗じ、酪農乳業界を騒がせ、国の生乳流通行政改革の是非論まで噴出させた北海道新聞の記者はこれほどの大きな「業界の問題」になるとは思っていなかったのではないか、と思う。

弊社MMJ(以下MMJ)では2月20日、前述の道新、徳永記者に取材を受けた。「乳質の問題で牛乳の買取を(MMJに)してもらえず廃棄している農家がある」という事であった。

確かに当時、異物混入問題やアルコール検査陽性乳(低酸度二等乳)の問題があり、問題解決の途上で生産者側の報告に間違いがあったり、根本的な施設の問題から改善の見込みのない酪農家の生乳はMMJでは受け入れられない、としていた。

全国約100軒程(注1)の農家のほとんどの生乳は品質的な問題はなく、通常通り売買されている。

今回問題となったのは北海道の道東地域に本拠地を置く、ちえのわ事業協と十勝ミルクカンパニー株式会社の一部の農家の生乳である。前述の二者から配乳を受ける問題を起こしていない大部分の正常なものは買い取り、販売している。

 

昨年は二者ともMMJを介さずに販売することを試みた。より流通の川下に向かって果敢に挑戦したのである。

一方で二者の法人に参画する農家の意識には「消費者により近づく」事のリスク、量的な安定は難しくなり、同時に売価もコントロールはできなくなる(注2)。という認識はなかったようだ。

酪農家は単純に消費者に近づく程「小売単価に近づく(注3)」と思っていた。

更に中間コストを下げ、農家の生産者乳価に還元しようと短絡的に問題解決をはかり失敗が重なった。一部の農家では劣悪な飼養状況まで見られた。

2つの酪農家組織とも性急に結果を求めすぎたのかもしれない。

 

一次産業を担う農家には潜在的願望として消費者に直接売りたい、自分の名前なり地域名を冠した商品を売りたい、という望みがあり、夢がある。コメや青果物は比較的容易にB to C が可能な品目だが生乳は難しい。

資格を持つ乳業工場を通さなければ一本の牛乳パックさえできない。

 

MMJでは今回の一連の出来事を3月18日付けでHPに掲載した。取引乳業からは応援のメッセージが多数来た。乳業としては国の乳等省令(注4)が何であれ「消費者に安心して提供できないものは受け入れもできない」のである。

品質面での選ぶ権利は100%乳業にある。

では、なぜ北海道新聞や酪農乳業速報がMMJをバッシングし、生乳受け入れ基準が厳しいと非難するのか?

今回の報道機関、北海道新聞、スピードニュース(酪農乳業速報)、日本農業新聞の読者はほとんどが生産者か、生産者にサービスを売る方々だからである。

お客様が期待し、楽しめる記事を書く、言うまでもなく報道機関のお客様は新聞購読者であり、そのお客様が喜ぶ新聞でなければ売れない。

北海道新聞の酪農をよく知らない記者が取材した記事が第一面に載った。驚くべき事だ。

彼が書いた原稿は直属の上司が先ず修正し、次に編集長が更に校正し、社長も手を加えたかもしれない。取材開始から1ヶ月以上を費やしたのだから。

当然その過程で意識するのは「読者」だ。

 

日本は市場経済で動いているのだからお客様に目線が行くのは仕方ないし当たり前のことである。

お客様に媚びる記事になる。

 

2年前まで全国の生乳の97%はJA系列の「系統」と呼ばれる組織から「配乳(注5)」されていた。国がこの組織にだけ国庫から補給金(400億余)を拠出し、組織を強化し安定生産、安定供給を計画し50年続けていた。

今はMMJも含め多くの自主販売業者が補給金を受けている。少しづつ自由競争は始まっている。

 

MMJ の取扱量は増え13万トン/年になった。全国の飲用牛乳のシェアでは5%を超えた。

2年前まで97%を独占的に配乳していた「系統流通」の隅でアウトサイダーと呼ばれ商いをしていた会社が、である。

取引乳業、顧客の厚い信頼なくしてあり得ないと考えている。

 

道東のちえのわ事業協の方々の「別海の名を冠した牛乳パックを実現してほしい」と言う願望をMMJは叶えた。「別海のおいしい牛乳」は関東を中心に東海まで12000本/日売れている。

酪農、牛乳の北海道、別海町という名を日本の中心的消費地に知らしめた。

「十勝牛乳」は十勝ブランドで最も売れている牛乳になった。大阪、京都、名古屋で15000本/日売れている。

※左から、ベイシアPB「別海のおいしい牛乳」、近藤乳業「別海のおいしい牛乳」、東海牛乳「十勝牛乳」

別海、十勝牛乳は合計27,000本売れている。

3人家族で計算してみると81,000人の顧客が毎日、昨日と同じ味を求めて買い、飲んで頂いている。消費者に安心して食して いただけるよう、現在の厳しい消費者に合わせた基準で牛乳製品を作っている。

 

 

まだ、ほとんどの酪農生産者は計画経済の中にいる。自由競争が始まったことさえ気づいていない。

川下の消費者に向かい自由競争、市場経済の中に分け入る事のリスクと責任の重さを、解る酪農家は少ない。

今回の新聞報道の多くの部分にちえのわ事業協のことが記されている。MMJを足がかりに4年余りの間に当初4名で始めた事業協は現在32名にまで増え、事業は海外にも展開している。急速な拡大も展開の多様性も国内に例がない。

 

北海道に初めてのMMJ通年契約農家は2014年4月の十勝の田口畜産だ。その後、別海のちえのわ事業協、富良野の藤井牧場と続く。

中心となる人はそれぞれに個性豊かで稀有な人物だ。

彼らが北海道の酪農の歴史を変えた。

※マーク部分が平成26年度~令和元年のホクレン共販費差し引き乳代

 

平成26年2月、86円46銭だった生産者乳価は令和2年2月102円01銭になった。

6年の間に15.55円値上がりした。

それまで多くの酪農組合で生産者乳価の値上げを叫んでも全く動じなかった(注6)。

ホクレンに無言の圧力をかけ、動かした。

値上げの原資はホクレン、加工原料乳補填金の増枠、加工向け競争入札の開始などである。ホクレンは連日対策会議を招集し、乳価値上げのための原資獲得に手を尽くした。

更に、北海道乳価が異常な値上がりを見せた事で都府県の生産者乳価交渉にも拍車がかかり、令和元年には飲用牛乳まで4円/kgの値上げを勝ち取った。

 

一方で15.55円の北海道乳価の値上がりが末端小売価格に転化され、消費者負担となっているか?と言うと小売価格はほとんど変わっていない。

ホクレン、大手加工乳メーカー、生産者補填金が負担した。

 

平成30年に内閣主導の行政改革で、長年続いた指定団体の独占的「加工乳補填金」が解放され、酪農家は自由に出荷先を選べるようになった。

一般的農畜産業なら当たり前のことだが、酪農にその自由はなかった。出荷先を生産者が選べるようになった。

今まで経験したことのない出荷の自由と生産者乳価の値上がり、「酪農バブル」という言葉が聞かれるほど活発な生産意欲、生産拡大が起きている。

 

品質の問題による一部生産者の出荷の停止問題と加工原料乳補給金給付の問題を混同するのは問題のすり替えであり、コジツケである。

基本的に、受け入れる原料乳の品質は各乳業者が所有の設備と販売する製品によって決定する。顧客に開示するとともに乳業の品質管理の基幹となる。

拙速にできたものではなく、長年の乳業の製造工程、営業過程の歴史の中で築かれたものだと思う。一部の農家の意見や論点を違えた報道、消費者不在の乳質論争は「牛乳」の信用問題にもなりかねない。

69年前の乳等省令が今も改正されずに有り、行政は当然それを基本に動く。

問題の根源は酪農家に自由を与えたことではない。

 

(つづく)

 

(注1)組合単位、または法人集団単位でMMJと契約する酪農家は傘下の酪農家個数で数

える。

(注2)飲用牛乳の消費の大半はスーパーである。日々売れた本数が翌日の発注となる。

コントロールはできない。

(注3)北海道では1パック180円〜220円。

(注4)乳等省令(昭和25年施行)

比重(摂氏15度において):1.028以上

酸度(ジヤージー種の牛以外の牛から搾取したもの):0.18%以下

細菌(直接個体鏡検法で一ml当たり):400万以下

(注5)配乳とは、国指定生産者団体が各指定された地域内の乳業者に事前の乳製品加工計画に従い生乳を配送する作業をいう。生乳単価は受け入れ後、使用した用途別に工場側からの報告により用途別単価が付され、それぞれの単価×数量の合計が生乳販連に請求される。例えばチーズに使ったら70円/kgとか飲用なら121円/kg、学校給食乳なら128円/kgとなる。

(注6)例として、平成20年、シカゴトウモロコシ相場が高騰し、配合飼料価格が過去最高の価格になった。北海道の畜産関係者や組合長はホクレンに対策を要求したが生乳は1円/kgの値上げもなかった。